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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1072号 判決

被告人

佐藤保明

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人橋本定の控訴趣意は末尾添付書面記載の通りである。

事実誤認の論旨について。(論旨第一点乃至第三点)原判決が被告人の本件犯罪行爲として認定したところは、(原判決の判示第一として記載しているところだけでは、その書き方が多小適切を欠き不明瞭なところがあるけれどもその引用している証拠と対照綜合して見ると)

被告人佐藤保明は大政翼賛会西國東郡支部事務長その他判示の樣な地位に在つたことの爲に、昭和二十二年十二月に同年勅令第一号にいわゆる覚書該当者としての指定を受た者であり、西村英一は、昭和二十四年一月二十三日施行された衆議院議員の総選挙に際して大分縣第二区より立候補し当選した者であるが、被告人は右西村の立候補前である昭和二十三年十一月六日別府市米屋旅館こと堀七衛方に、かねて西村を支持し同人を立候補させてその選挙運動をしようとの意図を有するところの藤本修二外八名の者と会合宿泊して、翌七日迄の間に同旅館に於て、西村の爲に西村が立候補する場合の選挙運動資金の調達見込額、政党公認の問題、公務員法施行の選挙に対する影響等の諸情勢、状況を話合つて、結局西村の立候補の場合は之を支持して同人の爲選挙運動をなすこととし、その運動地域の分担や各地域に対する選挙運動費用の割当殊に西國東方面はその費用を四十萬円とし、その運動を被告人が分担すること等の選挙運動の方針方法の協議を爲し、

(一)同月十日頃被告人自宅に於て西村の選挙連動者である田中鉄二から同樣選挙運動者である舟越忠義を介して現金十三萬円

(二)同月二十日頃別府市の被告人の別宅に於て前同樣田中鉄二から右舟越を介して現金十萬円

をいづれも前記協議に基き被告人が西村の爲選挙運動を爲すことの報酬とその運動資金とを含めて、被告人にその処分を一任する趣旨の下に供与されたものであることを察知し乍ら之を受取つた

と云うに在ることが知り得らるるところであつて、以上の点につき何等弁護人所論の如き事実誤認の疑は存しないのである。凡そ、証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねられているのであつて、その自由な判断によつて採用された証拠の趣旨が自己の見解と相反するからと云つて、直ちに以て証拠の判断を誤つたものとなすことは許されないものと言わねばならない。論旨第一点は結局原審裁判官がその自由なる判断によつてなした証拠の取捨判断を誤りとし、延いて事実の誤認を主張するものであつて採用の限りではない。

次に被告人が前記の樣に別府市米屋旅館こと堀七衛方で西村英一の衆議院議員選挙立候補に関し前示藤本修二等と前記の如き協議決定をなし、その協議に基く被告人の選挙運動に対する報酬及び資金として判示金員の供与を受けたことは、公選の候補者と支持し現実の政治に影響を及ぼす行爲であることが明かであるから、被告人の右行爲は包括一連の行爲として昭和二十二年勅令第一号第十五條第一項にいわゆる「政治上の活動」に該当するものと認むるのが相当であり又他面被告人が右判示金員の供与を受けた点は衆議院議員選挙法第百十二條に該当するものと認むべきことも同法の解釈上疑なきものと謂うべきである。右の所爲が西村の立候補届出前であつたことはもとより毫も右の断定を左右するものではない。(尤も選挙に関し選挙運動者が自己の選挙運動に対する報酬ならびに運動資金としてその処分を一任されて金員を受取つた場合には包括して法第百十二條第四号に該当するものと解するのを相当とするから原判決が被告人の所爲を同法第百十二條第五号に該当するものと判断したのは誤りと言ふべきであるが、いづれにしろその処罰は同一のものとなるのであるから、これを以て原判決を破棄するには値しない」左れば究極に於て原判決は右と同一判断に出でたのであるから論旨第二、三点に主張するような違法はないと言はねばならぬ。

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